松山地方裁判所 昭和59年(行ウ)4号 判決 1988年11月02日
原告
池内信雄
外一〇五五名
原告ら訴訟代理人弁護士
佐野隆雄
同
三井一雄
同
矢野真之
同
青野秀治
同
小沢英明
同
藤田康幸
同
菅原辰二
同
矢内原泉
同
菅徳明
被告今治市長
岡島一夫
被告訴訟代理人弁護士
堀家嘉郎
同
土山幸三郎
同
石津廣司
被告指定代理人
越智晋策
外一〇名
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 申立て
一 原告ら(請求の趣旨)
1 被告は、今治市が別紙今治港(富田地区)港湾計画平面図赤斜線部分に計画している埋立てに関し、埋立工事費用等一切の公金の支出をしてはならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
旨の判決を求める。
二 被告
主文と同旨の判決を求める。
第二 主張
一 請求原因
1 当事者
原告らは、いずれも愛媛県今治市(以下「今治市」という。)の住民である。
被告は、今治市の公金支出に関する最終責任者である。
2 織田が浜の現状
(一) 位置、形状等
古くから織田が浜と呼ばれた浜は、今治市富田地区に所在し、瀬戸内海燧灘に面して、北は竜登川の河口(現在は、竜登川、高下川及び銅川の各河口が集められて一つの水面貯木場となっており、右貯木場は導流堤により海面に通じている。ここで「竜登川河口」というのは、この導流堤部分を指す。)から南は頓田川の河口に及ぶ、延長約1.8キロメートルの白砂の海岸である。織田が浜のうち、竜登川河口から海岸線に沿って南へほぼ三〇〇メートルは木材団地となっており、ここから更に一二〇ないし一三〇メートル南の地点を起点として南東方向に続く延長約1.1キロメートル、面積約9.3ヘクタールの別紙今治港(富田地区)港湾計画平面図(以下「別紙平面図」という。)緑斜線部分<編集部注・網状部分にあたる>は、昭和五一年九月三日、都市計画法に基づき、今治広域都市計画における都市計画公園「東村海岸公園」に指定されている(以下右海岸全域を「織田が浜」といい、都市計画公園指定部分を「東村海岸公園」という。)。
また、織田が浜の地先海面は、自然公園法に基づく瀬戸内海国立公園に指定されている。
(二) 利用状況
東村海岸公園に当たる海浜区域は、都市計画公園に指定される以前から、付近住民等によって海水浴場として利用されてきており、今治市も、昭和五六年以降、同区域を海水浴場として望ましい場所として指定してきている。原告らが昭和五八年の夏に同区域の海水浴客利用者を調査したところ、七月一六日から八月一三日までの間に延べ約一五万人の利用者があった。
3 本件埋立ての計画及び工事の開始
(一) 今治市に所在する今治港は、港湾法二条二項に定める重要港湾であり、その港湾管理者は今治市である。同市は、重要港湾今治港の港湾管理者として、港湾計画の作成、港湾区域内における水面の埋立て等による土地の造成等を行う権限を有している(港湾法三四条、一二条)。被告は、今治港の港湾管理者の長として、今治港の港湾区域内における公有水面埋立免許の権限を有している(港湾法五八条二項、公有水面埋立法二条)。
(二) 今治港の港湾区域は、別紙今治港港湾計画位置図の青線<編集部注・太線部分にあたる>で囲まれた区域である。なお、右図面で「港湾区域(予定)」とされているのは、右図面が港湾計画が現在のものに変更される前に予定図として作成されたものであるからである。この港湾区域内において今治港第三次港湾計画が定められており、その内容の一つとして富田地区の海面約三四ヘクタールの埋立てが計画されている(以下この埋立てを「富田地区の埋立て」という。)。富田地区の埋立ての予定地域は、別紙平面図記載のとおりであり、そのうち右図面中赤斜線<編集部注・斜線部分にあたる>で表示された部分は、東村海岸公園の地先海面を埋め立てるものである(以下右部分の埋立てを「本件埋立て」という。)。
(三) 今治市は、今治港第三次港湾計画に基づき、富田地区の埋立てのうち今治市が工事主体となる部分(富田地区の埋立てのうち北西側の岸壁部分を除いた部分)の埋立てを行おうとし、昭和六一年八月二八日、埋立免許権者である被告に対し、公有水面埋立法に基づく埋立免許を出願した。被告は、同法所定の手続きを経て、昭和六二年三月二日、右出願にかかる埋立てを免許した(以下右免許を「本件埋立免許」という。)。
(四) 今治市は、本件埋立免許に基づき、昭和六二年五月から富田地区の埋立工事を開始し、現在も続行している。
4 本件埋立免許の違法性
本件埋立免許のうち本件埋立てに関する部分(以下、「本件埋立免許部分」ということがある。)は、瀬戸内海環境保全特別措置法(以下「瀬戸内法」という。)一三条及び公有水面埋立法四条に違反する違法なものである。
(一) 瀬戸内法違反
瀬戸内法一三条一項は、瀬戸内海における埋立免許に関し、埋立免許権者(条文の文言は「関係府県知事」となっているが、法の趣旨からすると右は埋立免許権者の意味と解される。)は、同法三条一項にいう瀬戸内海の特殊性、すなわち「瀬戸内海が、わが国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として、また、国民にとって貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきものであること」につき、十分に配慮しなければならない旨定めている。右において配慮すべき具体的事項については、同法一三条二項に基づき、瀬戸内海環境保全審議会が昭和四九年五月九日「瀬戸内海環境保全臨時措置法第一三条の埋立てについての規定の運用に関する基本方針について」と題する答申(以下「基本方針」という。)をし、その旨が、同年六月一八日環境事務次官から各瀬戸内海関係府県知事等にあてて通達されている。この結果、瀬戸内海における埋立免許については、公有水面埋立法四条に定める基準のほかに、基本方針が挙げる後述のものを含む各項目について環境に与える影響が軽微であることが免許の基準になっている。
ところが、本件埋立免許部分は、次に述べるとおり、基本方針が挙げる基準のうち「埋立てによる隣接海岸への影響の度合が軽微であること」(基本方針1(1)(ハ))及び「埋立てそのものの海水浴場等の利用に与える影響が軽微であること」(同2(2)(ロ))に違反している。
(1) 隣接海岸への影響
織田が浜においては、漂砂(風や波によって海水と共に移動する砂や小石)は北西から南東方向への移動が卓越しているので、本件埋立てにより、浜の北西側海中に沖に向かって六〇〇メートル近くの障害物ができると、北西からの漂砂の供給が止まって残された浜の砂は減少し、浜そのものが消滅するおそれがある。したがって、本件埋立てが隣接海岸に与える影響は重大であり、決して軽微であるとはいえない。
(2) 海水浴に与える影響
現在織田が浜で遊泳が可能な区域は、東村海岸公園区域のうち頓田川河口寄り南東部の約一五〇メートルの遊泳禁止区域を除いた約一〇〇〇メートルの部分である。ところが、本件埋立てが行われると、このうち北西部の約三七〇メートルは埋立地となり、かつ、その近辺はとうてい海水浴場としては利用できなくなる。仮に埋立地から五〇メートルの範囲は海水浴ができなくなるとすると、残る遊泳可能な区域はわずか五八〇メートルとなり、海水浴に与える影響は重大である。
(二) 公有水面埋立法違反
公有水面埋立法は、その四条において埋立免許のための最低限の基準を定めている。この基準をすべて満たしていない限り埋立免許をすることはできず、この点では埋立免許権者に裁量の余地はない。ところが、以下に述べるとおり、本件埋立ては、埋立てそのものが愛媛県知事が瀬戸内法四条に基づいて作成した「瀬戸内海の環境保全に関する愛媛県計画」(以下「愛媛県計画」という。)に違背するものであるから、公有水面埋立法四条一項一号の「国土利用上適正かつ合理的であること」及び同三号の「埋立地の用途が土地利用又は環境保全に関する国又は地方公共団体の法律に基づく計画に違背せざること」の免許基準を欠くものである。
(1) 瀬戸内法の下における自然海浜保全制度
ア 自然海浜保全地区制度
瀬戸内法は、自然海浜の保全等に関し特別の措置を講ずることにより、瀬戸内海の環境の保全を図ることを目的として制定された特別法であり(同法一条)、その前身である昭和四八年制定の瀬戸内海環境保全臨時措置法が昭和五三年に改正され、恒久法化されて同法となった際、瀬戸内海の自然海浜保全の施策の一つとして、自然海浜保全地区指定の制度が設けられた(同法一二条の六)。
愛媛県では、瀬戸内法一二条の六に基づき、昭和五五年三月一八日「愛媛県自然海浜保全条例」を制定し、本訴提起当時までに二一箇所を自然海浜保全地区に指定している。
自然海浜保全地区に指定されると、当該地区において埋立てを含む特定の行為をしようとする者はこれを知事に届け出なければならず、知事はこれに対して自然海浜保全地区の保全及び適正な利用のため必要な勧告又は助言をすることができるものとされている。このように、自然海浜保全地区における行為の規制が許可制ではなく届出制という比較的緩やかなものとされたのは、より多くの自然海浜を自然海浜保全地区に指定し、自然海浜保全の実をあげることを企図したからである。しかし、条例による行為の規制が届出制とされていても、例えば、埋立てについては、知事が埋立免許権を有しているので(公有水面埋立法二条)、完全にこれを規制することができる。したがって、届出制という一見緩やかで実効性のないように見える規制であっても、実際にはかなりの効果が期待できるのである。
ところで、愛媛県をはじめとして、瀬戸内法関係府県が同法一二条の六に基づいて制定した条例では、都市公園法二条一項に規定する都市公園の区域、自然公園法二条一号に規定する自然公園の区域、都市計画法四条六項に規定する都市計画施設(公園又は緑地に限る。)の区域等については、自然海浜保全地区に指定しないものと規定されている。これらの区域(以下「除外区域」という。)が自然海浜保全地区の指定対象外とされたのは、次のような理由による。すなわち、除外区域については、自然海浜保全地区において規制される行為と同様の行為が各根拠法律によって規制されており、これらの規制は主として許可制であって、自然海浜保全地区における規制(届出制)よりも厳しいものとなっている。しかし、除外区域における行為の規制は、必ずしもすべてが自然海浜保全の見地からされるものとは限らないので、自然海浜保全の見地から行政指導を行うために、重ねて自然海浜保全地区に指定することも、一応は考えられる。ところが、あえてこれをせず、除外区域を自然海浜保全地区の指定対象外としたのは、除外区域における各根拠法律に基づく規制において自然海浜保全の配慮を働かせること、すなわち除外区域において自然海浜の保全を図ることが、当然の前提となっているためである。
したがって、瀬戸内海においては、まず除外区域において各根拠法律により自然海浜の保全を図り、次いでその他の自然海浜を自然海浜保全地区に指定してその保全を図るということが瀬戸内法の趣旨となっており、そこでは自然海浜保全地区制度は補充的なものにすぎないと考えられているのである。
イ 瀬戸内海の環境保全に関する府県計画
瀬戸内法四条には、「関係府県知事は、基本計画(同法三条に基づき政府が作成する。)に基づき、当該府県の区域において瀬戸内海の環境の保全に関し実施すべき施策について、瀬戸内海の環境保全に関する府県計画を定めるものとする。」と規定されている。
愛媛県知事は、右の規定に基づき、前記愛媛県計画を定めている。この計画の「第3目標達成のため講ずる施策」の「4自然海浜の保全等」の「(1)規制の徹底と指導、取締りの強化」の項には、自然海浜保全地区指定の推進とともに「その他県下の貴重な自然海浜が、自然公園法、都市計画法、都市公園法、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律、森林法に基づく各種指定地区に指定されているので、これら指定地域においては、当該法律に基づく適切な運用を図ることにより、自然海浜がその利用に好適な状態で保全されるよう努めるものとする。」旨が計画の内容として定められている。
右の計画内容を織田が浜について当てはめるならば、「織田が浜の砂浜の中央部分(東村海岸公園)は都市計画法に基づく都市計画公園、その地先の海面は自然公園法に基づく国立公園に指定されているので、これらの指定地区においては、当該法律の適切な運用を図ることにより、自然海浜が海岸利用の公園にふさわしい状態で保全されるよう努めるものとする。」ということになる。
(2) 四条一項一号違反
本号は、埋立免許の基準として「国土利用上適正かつ合理的なること。」と定めているが、この国土とは、土地のみならず水面をも含む趣旨であって、水面を水面のまま残すことも含めて、埋立てそのもの及び埋立地の用途が適正かつ合理的であることが必要とされているのである。
前記の自然海浜保全地区制度の趣旨及び愛媛県計画の内容によれば、東村海岸公園は都市公園の予定地たる都市計画公園であり、またその地先海面が自然公園であるので、その海浜地の自然状態を保全し、地先の海面を海面のままに保全して利用することが、国土利用の目的とされているのである。
したがって、東村海岸公園の地先の海面を埋め立てることは、とうてい国土利用上適正かつ合理的なものとはいえず、本件埋立ては本号に違反する。
(3) 四条一項三号違反
本号は、埋立免許の基準として「埋立地の用途が土地利用又は環境保全に関する国又は地方公共団体の法律に基づく計画に違背せざること。」と定めている。本号では「埋立地の用途が」と規定されているが、土地利用又は環境保全に関する計画において当該海面を海面として残しておくことが決められている場合に、これに反する埋立てを認めないことも、当然その内容となっているのである。
前記愛媛県計画は、自然海浜を保全することを定めている点でその名のとおり環境保全に関する計画であるとともに、自然海浜を適正な利用に供することを定めている点で土地(海面を含む。)利用に関する計画であるともいえるから、右計画が本号にいう計画に当たることは明らかである。
したがって、東村海岸公園の地先の海面を埋め立てることは、右愛媛県計画の内容に違背し、これにより本号に違反することになる。
5 本件埋立ての違法性
本件埋立免許部分(本件埋立免許のうち本件埋立てに関する部分)は、これまで述べたとおり、免許基準に合致しないのになされた免許であり、違法である。したがってまた、本件埋立て自体も、違法な免許に基づく埋立てとして違法なものとならざるを得ない。公有水面の埋立ては、免許権者の適法な免許に基づいてなされることにより、はじめて適法なものになり得るからである。
右の点を別の観点から見ると次のようになる。
本件埋立免許部分を違法とする理由の主なものは、本件埋立てそのものが愛媛県計画に違背するということである。そして、埋立免許の基準として埋立てそのものないしは埋立地の用途が計画に違背しないことが定められているということは、埋立てと計画との整合性が要求されているということである。したがって、計画に違背する埋立ては、それが計画に違背するということ自体により違法であり、法律上本来免許されることがあってはならないものである。そして、このような埋立ては、仮に免許されたとしても、計画に違背するという実体には変わりなく、計画の遵守を定めた計画の根拠法に違反するという点で違法の評価を受けるべきである。これを本件についていえば、本件埋立ては、愛媛県計画に違背するものであり、愛媛県計画の遵守を定めた瀬戸内法四条の二に違反する違法な埋立てということになるのである。
6 本件公金支出の違法性
以上のとおり、本件埋立ては違法なものである。したがって、以下に述べる理由から、本件埋立てのためにする公金の支出もまた違法となる(以下本件埋立てのためにする公金の支出を「本件公金支出」という。)。
(一) 公金支出が違法となるのは、公金支出自体が直接法令に違反する場合だけではない。その原因となる行為が法令に違反し許されない場合の公金支出もまた違法となる。このことは、確立した判例である(最高裁昭和五二年七月一三日大法廷判決・民集三一巻四号五三三頁、同昭和五八年七月一五日第二小法廷判決・民集三七巻六号八四九頁、同昭和六〇年九月一二日第一小法廷判決・裁判集民事一四五号三五七頁参照)。
もっとも、右判例の中には原因行為と公金支出との間には一体として評価されるべき密接な関係、すなわち、原因行為が公金支出の直接の原因であるといえるような関係があることが必要であるとしているものもある。これを本件について見ると、今治市が埋立てをするということは当然に今治市の公金の支出を伴うものであり、その意味で本件埋立ては公金支出の直接の原因であるということができる。
(二) また、前記の各判例は、単に原因行為の違法性だけではなく、公金支出の目的ないしは公金支出により実現される結果の違法性をも問題とし、これらが違法なときは当該公金支出は違法になると判断しているものと解される。
本件公金支出は違法な埋立てを目的とするものであり、本件公金支出がなされることにより本件埋立てが実施され、愛媛県計画に違背する違法状態が生じることになる。
よって、本件公金支出は違法である。
(三) 被告は、公金支出自体に固有の違法がなく、その原因となる非財務会計上の行為が違法なだけである場合には、その違法が重大かつ明白なものでない限り、当該公金支出は違法にならない旨主張している。そうすると、被告も、公金支出の原因となる行為が財務会計上の行為であれば、これが違法なときは公金支出が違法になることを認めているものと思われる。
右の観点から見た場合、埋立免許処分は、国有の公有水面について、水面が陸地化され竣工認可がされることを条件として、埋立地の所有権を申請人に付与する処分である。したがって、その反面として、申請人にとって、免許を得て行う埋立ては埋立地の所有権取得のための行為となる。このように、免許を得て行う埋立ては、財産の取得として財務会計上の行為たる性格を有している。
よって、財務会計上の行為である本件埋立てが違法であるから、本件埋立てのため、すなわち違法な財産取得のためにされる本件公金支出も違法である。
(四) 仮に、公金支出の原因となる行為が違法であってもその違法が重大かつ明白でない限り当該公金支出が違法とならないとしても、本件埋立てに関する公金支出は違法となる。すなわち、本件埋立免許部分は違法であり、しかも次に述べるとおりその瑕疵の程度が重大かつ明白であるため無効であり、したがってまた、このような状態の下でこのような免許に基づきなされる本件埋立て自体にも重大かつ明白な違法が存するということができるからである。
(1) 違法の重大性
公有水面埋立法四条一項には「埋立地の用途が土地利用又は環境保全に関する国又は地方公共団体の法律に基づく計画に違背せざること」が埋立免許の基準として掲げられている。この結果、右に該当する計画が定められている海域については、埋立ては計画に従って行うこと、すなわち海面を埋め立てることが計画に定められている区域のみ埋立てを行い、海面を海面のまま残すことが計画で定められている区域では埋立ては認めない、ということが公有水面埋立法の基本的構造となっている。したがって、当該海域について定められた計画は、埋立免許の上位に位置する処分であり、埋立てが計画に適合していることは埋立免許の根幹にかかわる重大な要件なのである。
中でも埋立てそのものが計画に違背する場合、その瑕疵は埋立地の用途の変更や埋立工事の方法の変更等によって是正することはできず、埋立てを禁止する以外に是正の方法はない。したがって、このような違法状態を放置すること、すなわち埋立免許の効力を認めることは、とうてい法の容認し得るところではなく、その瑕疵は重大である。
また、仮に計画に違背する埋立免許が有効であるとするなら、結果として埋立免許権者によって計画が変更されたことになる。しかし、埋立免許権者には上位の処分である計画を変更する権限はない。したがって、埋立てそのものが計画に違背する場合になされた埋立免許には、権限外の行政処分をしたのと同視すべき重大な瑕疵があることになる。
(2) 違法の明白性
まず、公有水面埋立法の規定を見れば、埋立免許基準を満たしていない埋立てについて埋立免許をなし得ないこと及び埋立免許基準を満たしていないにもかかわらずなされた埋立免許が違法であることは明白である。次に、本件で問題とされている公有水面埋立法四条一項三号に定める埋立免許基準は、埋立てと法定の計画との整合性を基準としているものであるから、他の埋立免許基準に比べて判断が容易にできる。
愛媛県計画の内容は、都市計画公園東村海岸公園の自然海浜を保全するというものであり、これに対し本件埋立ては、自然海浜を保全すべきことが定められている東村海岸公園の海岸の三分の一について、その地先の海面を埋め立て、自然海浜を消滅させるというものである。したがって、本件埋立てが愛媛県計画の内容に違背することは、誰が見ても一目瞭然である。
7 公金支出の確実性
今治市は、本件埋立免許に基づき、昭和六二年五月から富田地区の埋立工事を開始し、現在もこれを続行している。したがって、今後も今治市が本件埋立てを含む富田地区の埋立工事を継続し、そのために今治市の公金が支出されることは、相当の確実性をもって予想される。
8 回復しがたい損害の発生
本件埋立免許のうち本件埋立てに関する部分は、前述のとおり違法であり、無効又は取り消し得べきものである。
無効な埋立免許に基づく埋立ての法律効果は、埋立免許を受けないで埋立工事をした場合と同一である。すなわち、本件埋立てのために公金の支出がなされても、今治市は埋立地の所有権を取得することはなく、それどころか本件埋立ての原状回復義務を負うことになるのであり(公有水面埋立法三六条、三五条一項)、また、仮に原状回復義務を免除されても埋立地の所有権は無償で国に帰属し(同法三六条、三五条二項)、本件公金支出は全く無駄な支出となるのである。
また、取り消し得べき埋立免許に基づく埋立てについては、公有水面埋立法三二条により埋立免許が取り消され、同法三五条の適用を受けることになるので、右の無効な埋立免許に基づく埋立ての場合と同じ結果となる。
他方、富田地区の埋立てのうち今治市が工事主体となる部分に要する費用は概算一六七億円であり、このうち本件埋立てに要する費用は一〇〇億円を下るものではない。したがって、このような額の公金が支出されれば、後日市長である(又はあった)特定個人その他今治市の職員である者に対し損害賠償の代位請求を行っても、その回収は事実上不可能である。
9 監査請求の前置
原告らは、昭和五八年一二月二〇日、昭和五九年一月五日及び同月一九日に、本件埋立工事等に関する公金の支出について、地方自治法二四二条に基づき住民監査請求をした。今治市監査委員は、これに対し、昭和五九年二月六日、公金の支出は相当の確実性をもって予測されないとして、原告らに対しその旨通知してきた。
10 結論
よって、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づき、被告に対し本件埋立てに関し工事費用等一切の公金の支出をしないよう命ずる判決を求める。
二 請求原因に対する認否等
1 請求原因2(織田が浜の現状)の事実について
(一)(位置、形状等)の事実は認める。ただし、正確には、現在では木材団地部分は織田が浜の中に入れないで理解するのが一般であり、被告が「織田が浜」というときは、原告がいう織田が浜から右部分を除いた部分を意味する。
(二)(利用状況)のうち東村海岸公園に当たる海浜区域が海水浴場として利用されてきた事実は認める。しかし、今治市東部には、頓田川以南に延長約七キロメートルの海岸があり、この中でも唐子浜、志島ヶ原、大崎等の海水浴場は、白砂青松で、夏の西日がささず、駐車場、シャワー、更衣室、宿泊施設等が整備されていて、利用者も多い。これに対し織田が浜は、道路事情が悪く、木陰や便益施設もなく、また、都市化現象による水質の悪化等により快適性に欠けていて、前記各海水浴場に比べて利用者は少ない。原告らは、織田が浜の海水浴利用者を年間一五万人に及ぶというが、これは明らかに事実に反する。今治市が昭和五九年夏に行った調査の結果では、織田が浜の海水浴利用者は年間約二万人と推計される。しかも、右人数自体、本件訴訟等が報道機関によって宣伝され、好奇心から訪れた人により増加した結果にすぎないと考えられる。
2 請求原因3(本件埋立ての計画及び工事の開始)の(一)ないし(四)の事実はいずれも認める。
3 請求原因4(本件埋立免許の違法性)及び同5(本件埋立ての違法性)のうち、基本的な法規制及びその形成過程が原告ら主張のとおりであることは認める。その余の主張は争う。
(一) 瀬戸内法違反の主張について
以下に述べるとおり、本件埋立免許が基本方針の掲げる基準に違反している事実はない。
(1) 隣接海岸への影響
織田が浜においては、現在、漂砂は南東から北西方向への移動が卓越している。したがって、本件埋立てが行われても、異常洗掘等による隣接海岸への影響は生じない。
なお、仮に将来織田が浜の砂が減少するようなことがあっても、その時点においてこれを予防、是正する措置を講じることは技術的に十分可能である。
(2) 海水浴に与える影響
本件埋立てによって、織田が浜(ただし、前述のとおり、原告らのいう織田が浜から木材団地の部分を除く。)約1.5キロメートルのうち三分の一の約五〇〇メートルの渚(原告の主張する東村海岸公園部分約三七〇メートルとここから木材団地までの約一三〇メートルを合わせたもの)が失われる。しかし、従前の織田が浜は、シャワー、公衆便所等の便益施設や木陰がなく、比較的利用者の少ない海岸であったのに対し、今治市の計画では、今後、残された約一〇〇〇メートルの海岸に木陰を設け、水飲み場、シャワー、公衆便所等の施設を新設し、海水浴場としてより快適に利用できるよう整備することとされている。さらに、埋立地の護岸は、従来のように切り立った直立護岸にするのではなく、陸寄りは階段状の親水護岸とし、沖側は魚釣りの楽しめる護岸構造とし、埋立地内に緑地を設けることが予定されている。これらによって、織田が浜は、従前よりも海洋性レクリエーションの場としての利用効果を高めることになる。
また、既に述べたとおり、今治市東部には、頓田川以南に約七キロメートルの海岸があり、その中には唐子浜(延長約一七〇〇メートル)、志島ヶ原(延長約六五〇メートル)、大崎(延長約一六〇〇メートル)等の海水浴に適した海岸がある。
市民は、これまでどおりこれら主要な他の海水浴場を利用できるし、また、今後整備される織田が浜を海水浴に利用することもできるのである。したがって、本件埋立てが海水浴場等の利用に与える影響は極めて軽微である。
(二) 公有水面埋立法四条一項一号違反の主張について
仮に、原告らの主張するとおり、織田が浜については自然海浜保全地区に準じて保全すべきものであるとしても、愛媛県自然海浜保全条例五条は、自然海浜保全地区の埋立てについて、埋立てをしようとする者に対し事前の届出又は通知を義務付けているにすぎない。このことは、自然海浜保全地区についても埋立てができることを前提としているのである。したがって、原告らのように、自然海浜保全地区においては埋立てが一切禁止されていると解し、本件埋立てが国土利用上適正かつ合理的でないと断定することは、誤りである。
また、今治市では、国土利用計画法八条に基づき、今治市土地利用計画を定めている。この計画には、蒼社川と頓田川の間に位置する南部地域の臨海部においては、港湾ターミナル機能の拡張と工場の移転拡張等に対応する都市再開発用地の確保を図るため、周辺環境の保全に配慮しながら「海面埋立てによる土地造成を促進する」と定められている。織田が浜は、まさしく右にいう南部地域の臨海部である。したがって、織田が浜において海面埋立てによる土地造成を行うことは、右利用計画の基本方針にそうものであり、国土利用上適正かつ合理的なものである。
(三) 公有水面埋立法四条一項三号違反の主張について
愛媛県計画及びその根拠法規である瀬戸内法は、同法の適用区域においても海面の埋立てができることを前提としたうえで、瀬戸内海の特殊性にかんがみ、自然海浜はできる限り保全すること、やむを得ずこれを埋め立てるときは環境保全に十分留意して行うべきことを規定した訓示規定にすぎない。したがって、愛媛県計画がいかなる場合においても自然海浜地の地先海面を海面のまま残しておくことを要求していると解することはできないのであって、右計画が本件埋立てを禁止する根拠となり得ないことは明白である。
4 請求原因6(本件公金支出の違法性)の主張は争う。
地方自治法二四二条の二第一項一号に基づいて違法な公金の支出の差止めを求める際に主張できる違法事由は、財務会計上の行為の違法に限定され、公金支出の原因となる行政処分等非財務会計上の行為が違法であることを理由として当該公金支出が違法であるというためには、非財務会計上の行為が重大かつ明白な違法性を有し無効であると認められることを要すると解すべきである。
ところが、原告らは、もっぱら本件埋立免許及び本件埋立ての違法を主張するのみであって、財務会計上の行為の違法については何らの主張もしていない。
また、原告らが本件埋立免許が違法である根拠として主張する公有水面埋立法四条所定の免許基準及び瀬戸内法一三条一項に基づく基本方針等は、いずれも抽象的な規定であって、具体的な埋立計画がこれに合致するかどうかの判断は、所轄行政庁の裁量判断に委ねられている。すなわち、右法令に基づく免許等の処分は、法規裁量処分である。そして、裁量処分の違法とは、処分庁に裁量権の逸脱又は濫用がある場合をいうものであるが、その違法は一般的には取消原因となるにとどまり、無効原因となるものではない(行政事件訴訟法三〇条参照)。したがって、原告らの主張自体、せいぜい取消原因に該当する違法を主張するにとどまり、無効原因に該当する重大かつ明白な違法を主張するものではない。
そうすると、原告らは、本件公金支出差止めの根拠となり得る本件公金支出の違法について、何ら主張していないこととなる。よって、原告らの主張は失当である。
5 請求原因7(公金支出の確実性)の事実は認める。
6 請求原因8(回復しがたい損害の発生)の主張は争う。
(一) 原告らは、本件埋立てのために今治市が支出する公金は約一〇〇億円であり、これがすなわち、本件埋立てに伴って今治市の被る損害であると主張している。
しかし、富田地区の埋立てによって約34.1ヘクタールの土地が造成され、右土地のうち約33.4ヘクタールが今治市の所有となる。近隣の土地の公示価格は一平方メートル当たり六万〇一〇〇円であるから、富田地区の埋立てによって今治市の取得する土地の価格は約二〇〇億円と見込まれる。このように、今治市は、本件埋立てによって原告ら主張の支出金額を大きく上回る価値のある土地を取得することができるのであるから、今治市が損害を被るおそれは全くない。
(二) 原告らは、本件埋立免許は違法で、無効又は取り消し得べきものであるため、今治市が埋立地の所有権を取得することができず、その結果本件埋立てのために支出した公金はすべて無駄になるので、今治市は損害を被るおそれがあると主張している。しかし、本件埋立免許に違法のないことは既に述べたとおりであるから、原告らの右主張は失当である。
なお、原告らの主張する違法事由がせいぜい取消原因に該当するものにとどまることは、既に述べたとおりである。ところが、本件埋立免許については、取消訴訟の出訴期間が既に経過しているので、もはや取消訴訟によって取り消されることはない。また、被告のした本件埋立免許は、申請者である今治市に対して埋立権を付与するという授益的行政処分であり、竣功認可があれば今治市が埋立地の所有権を取得するという法律関係を形成する処分であるから、このような行政処分については、仮に瑕疵があっても、被告においてこれを取り消すことは許されないのである。したがって、今後本件埋立免許が取り消されることなどは、あり得ない。
第三 証拠<省略>
理由
第一本件各訴えの適法性
元共同原告飯塚芳夫(本件訴訟のうち同人の請求に関する部分は、昭和六二年二月二六日同人の死亡により終了した。)の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、請求原因1(当事者)及び同9(監査請求の前置)の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
第二織田が浜の現状及び本件埋立ての計画等
①請求原因2(織田が浜の現状)の(一)(位置、形状等)の事実、②東村海岸公園に当たる海浜区域が海水浴場として利用されてきた事実(請求原因2(二)の一部)及び③請求原因3(本件埋立ての計画及び工事の開始)の(一)ないし(四)の事実は、いずれも当事者間に争いがない(ただし、現在織田が浜の中に木材団地部分を入れて理解するのが一般的か否かについては、原告らと被告との間に意見の食い違いがある。以下、本判決において「織田が浜」というときは、特に断りのない限り木材団地部分をも含む地域を意味する。)。
第三本件公金支出の差止めの根拠となる違法性
一原告らは、本件公金支出が違法である理由につき、本件埋立て自体が違法であるから、そのために公金を支出することも違法であると主張している。すなわち、原告らは、本件公金支出の差止めを求める根拠として、右支出自体に固有の違法事由があると主張しているのではなく、その原因となる本件埋立てが違法であると主張しているにすぎない。
そこで、まず、公金支出の差止めが許されるのは、当該支出自体に固有の違法事由がある場合に限られるのか、その原因となる行為が違法であるにすぎない場合も含まれるのかにつき検討する。
二地方自治法二四二条の二に規定されているいわゆる住民訴訟の制度は、地方公共団体の執行機関又は職員による同法二四二条一項所定の違法な財務会計上の行為又は怠る事実が究極的には当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害するものであることから、これを防止するため、住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とした制度である(最高裁昭和五三年三月三〇日第一小法廷判決・民集三二巻二号四八五頁参照)。
このような制度の趣旨・目的からすると、住民訴訟において裁判所が判断できるのは、財務会計上の行為又は怠る事実に違法があるかどうかの点に限られ、その他の地方公共団体の事務一般に違法があるかどうかの点については、それ自体としては、住民訴訟の手続の中では判断できないものといわなければならない。このことは、①住民訴訟の前提として行われる地方自治法二四二条所定の住民監査請求の審査を行う監査委員の本来の職務権限が、普通地方公共団体の「財務に関する」事務の執行の監査に限られ(地方自治法一九九条一項)、地方公共団体の事務一般の監査には及んでいないこと及び②地方自治法七五条は地方公共団体及びその執行機関等の事務の執行一般を対象とする監査請求の制度を規定しているものの、住民は、この監査の結果に不服があっても、住民訴訟のように裁判所に対し違法な事務の執行の予防又は是正を求める手段を与えられていない(このような制度は設けられていない。)ことから考えても明らかである。
三右に述べたところにかんがみると、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づき公金の支出等同法二四二条一項に掲げられた財務会計上の行為の差止めを求める請求において、その差止めが認められるのは、原則としては当該財務会計上の行為自体に固有の違法がある場合に限られると考えるのが合理的である。
この点につき、原告らは、当該財務会計上の行為に固有の違法がある場合に差止めが許されるだけでなく、その原因となる行為(非財務会計上の行為)に違法が認められる場合にも、当該財務会計上の行為に違法をもたらしてその差止めが許されるとし、このことは確立した判例であると主張する。
しかし、判例に関する原告らの理解には問題がある。
まず、原告らの引用する各判例が、当該財務会計上の行為の原因となる非財務会計上の行為が違法であることにより当該財務会計上の行為も直ちに違法となることを一般的に認めたとするのは、早計にすぎるというべきである。引用された判例は、その事案を見ると、当該財務会計上の行為とその原因となる非財務会計上の行為が密接不可分であるため別個のものとしてよりもむしろ一体のものとして評価されるにふさわしい事案であったり、原因となる行為が憲法に違反して許されないものである場合であったりなど、個別事案に即して判断されたものと見ることができるからである。
また、原告らの引用する各判例は、いずれも住民が地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、当該地方公共団体に代位して、違法な財務会計上の行為をした職員に対しその違法な行為によって当該地方公共団体が被った損害の填補を求めた事案に関するものである。このような事案においては、財務会計上の行為の違法性は、当該職員が地方公共団体に対し損害賠償義務を負うかどうかという観点のみから問題とされるのであって、この場合、原因となる行為が違法であるために当該財務会計上の行為もまた違法となるとして扱われても、その原因となる行為自体の効力が覆されるわけではない。しかし、本件のように公金支出の差止めを求める訴訟において、その原因となる行為の違法性を問題とすることを許すと、事実上非財務会計上の行為の遂行を阻止する結果となる。結果にこのように大きな差異がある以上、損害賠償請求において原因となる非財務会計上の行為の違法性が当該財務会計上の行為の違法性をもたらすとして当該職員に賠償責任を認める場合と、非財務会計上の行為の違法性が当該財務会計上の行為の違法性をもたらすとしてその差止めを認める場合とでは、財務会計上の行為の違法性とその原因となる非財務会計上の行為の違法性の関係を論ずるに際し考慮すべき要素が常に同一でなければならないという必然性はない。したがって、仮に原因となる非財務会計上の行為の違法性一般が当該財務会計上の行為の違法性をもたらすとするのが原告ら引用の各判例の考えであるとしても、損害賠償請求の場合において示されたその考えを、差止めの求められている本件に直ちに当てはめることはできないというべきである。
四右に述べてきたところを前提にすると、本件のような公金支出の差止めを求める住民訴訟において、原因となる行為の違法性が公金支出の差止めの根拠となり得るか、なり得るとしてその要件はどうなるかについては、①前記住民訴訟制度の趣旨・目的、②住民訴訟制度のほかに、行政処分を争訟の対象とした抗告訴訟制度をも含む行政事件訴訟制度の仕組み全体、③右制度が前提としている司法と行政とのかかわり合いのあるべき姿等の要素を考慮に入れつつ、これらの要素の整合はいかにしたら得られるかという観点に立って検討すべきものということができる。そして、この立場に立つときは、原因となる非財務会計上の行為の違法性一般が公金支出の差止めの根拠となるとする見解は、採用することはできないものというべきである。その理由は、以下に述べるとおりである。
まず、地方公共団体の事務で公金の支出を伴ないものはほとんど存在しないから、右見解を採用した場合、地方公共団体の事務のほとんどすべては、公金支出と結び付けて構成しさえすれば、住民訴訟によってその違法性を争うことができることになり、しかも公金の支出を差し止めることによって事実上その事務の遂行を阻止することができる結果ともなってしまう。しかし、このような結果が住民訴訟制度の予想したものと見られ得るかについては、前述した右制度の趣旨・目的に照らし、重大な疑問があるといわざるを得ない。
次に、地方公共団体におけるものを含む行政行為一般の違法を争う手段として設けられている抗告訴訟制度(行政事件訴訟法三条)においては、その対象は行政庁の行為のうち行政処分性のあるものに限られ、さらに、原告適格(訴訟の結果につき固有の法律上の利益を有する者に限り提訴できる。)、出訴期間(行政処分の効力の早期安定を図るため、争い得る期間を制限している。)等の訴えの要件はすべて満たした場合にのみ適法な訴えと認められるものとされている(同法九条、一四条、三六条、三七条)。
ところが、原因となる非財務会計上の行為の違法を理由として公金支出の差止めを認めるとすると、当該地方公共団体の住民は、住民であるという地位だけに基づいて、当該行為の行政処分性の有無にかかわらず、また抗告訴訟制度で定められている出訴期間の制限もなくして(住民訴訟制度においても争い得る期間に制限が設けられているが、右制限によっても、公金支出の差止めを求める請求の場合には、当該支出が終了しない限り、いつまでも訴訟を提起することが可能である。)地方公共団体の行為一般の違法を争い、かつ、事実上その実現を阻止できる結果となってしまう。しかし、このような結果は、前記のような抗告訴訟制度との整合性を欠く度合いの極めて大きいものであり、その意味で不当な要素を多分に有しているといわざるを得ないのである。
さらに、住民訴訟は、行政事件訴訟法五条に規定する民衆訴訟のひとつであって、法律が特に定める場合にのみこれを提起できるものであることも忘れてはならない点である。住民訴訟がこのようなものであるとすれば、抗告訴訟制度との整合性を欠く度合いの極めて大きい結果となる場合にまで住民訴訟を提起し得るとするためには、そのことが住民訴訟の根拠となる法律の定め自体あるいは右訴訟制度の趣旨・目的から明確に導き出されることが必要というべきである。ところが、法律の定め(地方自治法二四二条の二、二四二条)自体からも、また住民訴訟制度の趣旨・目的からも右結果を是認するものを導き出すことはできない。むしろ、右結果が制度の趣旨・目的から逸脱するおそれの大きいものであることは前述のとおりなのである。
五公金支出の差止めを求める住民訴訟において、支出の原因となる非財務会計上の行為の違法性一般が、差止めの根拠となるべき違法性を当該公金支出行為にもらたらすとの見解を採用することができないことは、右に述べたとおりである。
しかし、公金支出自体に固有の違法性が認められない限り、いかなる場合にも住民訴訟によってこれを差し止めることは許されないと解するのも相当ではない。公金支出の原因となる非財務会計上の行為に重大かつ明白な違法がある場合には、支出自体に固有の違法性は認められないときでも差止めが許されると解すべきである。原因となる行為の違法性がこのような程度に至っている場合にまで、住民らは当該行為実現のために公金が支出されるのを手をこまねいて見ていなければならないとするのは、いかにも不合理であり、前記住民訴訟制度の趣旨・目的からもむしろ外れることになると思われ、また、このような場合に差止めを認めたとしても、抗告訴訟制度との整合性を欠くなどの不都合はほとんど発生しないといってよいからである。
以上により、当裁判所は、公金支出(より一般的にいえば財務会計上の行為)の原因となる非財務会計上の行為の違法性は、それが重大かつ明白な場合に限って当該公金支出にその差止めを根拠付けるだけの違法性をもたらし、それ以外のときはそのような違法性をもたらさないとの立場を採用する。
六なお、原告らは、公金支出の原因となる行為が財務会計上の行為である場合には、その財務会計上の行為が違法であれば、公金支出も当然に違法になると主張したうえ、本件埋立ては、本件埋立免許が財産の処分に当たることの反面として財産の取得に当たるので、財務会計上の行為になると主張している。
しかし、住民訴訟の対象となり得る地方自治法二四二条一項所定の財産の取得及び処分は、前記二記載の制度の趣旨・目的にかんがみると、いずれも当該地方公共団体が当該財産の財産的価値自体に着目して、その取得・処分を直接の目的としてなす行為に限られるものと解すべきである。すなわち、当該地方公共団体のなす右のような行為でない限り、たとえその行為の結果として当該地方公共団体が当該財産を取得したり、失ったりすることになるとしても、それは住民訴訟の対象にはならないと解すべきである。
ところが、埋立免許に基づき公有水面が陸地化されると、竣工認可を条件として申請人に埋立地の所有権が与えられることは原告らの主張するとおりであるけれども、本件埋立てを、今治市がそれによって取得すべき埋立地の財産的価値に着目し、これを取得することを直接の目的としてなす行為と見ることはできない。したがって、本件埋立ては、地方自治法二四二条一項所定の財務会計上の行為には当たらないといわなければならない。
原告らの右主張も採用できない。
七以上のとおりであるから、本件公金支出の差止めが認められるのは、本件埋立てに重大かつ明白な違法がある場合に限られることになる。そこで、以下、右のような違法があるかどうかについて検討する。
第四本件埋立の違法性
一原告らが本件埋立ての違法事由として主張するところは、手続的側面から見れば埋立ての根拠となるべき本件埋立免許部分が違法であることであり、実体的側面から見れば本件埋立てそのものが法の定める免許基準に合致しない埋立てであることである。しかし、本件埋立免許部分の違法事由として主張されているのは、免許基準に合致しない場合であるにもかかわらずなされた免許であるというに尽きるから、結局のところ、本件埋立ての違法事由として主張されているところは、本件埋立免許部分の違法事由として主張されているところと等しいことになる。そこで、以下においては、便宜本件埋立免許部分の違法という形で、本件埋立ての違法性について検討していくことにする。
二原告らは、本件埋立免許部分(本件埋立免許のうち本件埋立てに関する部分)について、①瀬戸内法一三条所定の配慮義務に違反した違法な免許である。、②本件埋立てが愛媛県計画に違背するため公有水面埋立法四条一項一号及び同三号の免許基準を欠いているにもかかわらずなされた違法な免許である、旨主張している。
そこで、右違法性の判断に先立ち、原告らがその違法の根拠として主張する瀬戸内法及びこれに基づく愛媛県計画における自然海浜保全の制度について概観する。
前記第二の当事者間に争いのない事実に<証拠>を総合すると、次のとおり認められる。
1 瀬戸内法の制定等
瀬戸内法は、昭和四八年に瀬戸内海環境保全臨時措置法として制定された。同法は、当初時限立法であったが、昭和五三年の改正によって恒久法化され、名称も瀬戸内海環境保全特別措置法と改められた(以下、右改正の前後で特に区別をする場合には、右改正前の瀬戸内海環境保全臨時措置法を「臨時措置法」といい、右改正後の瀬戸内海環境保全特別措置法を「特別措置法」という。)。
臨時措置法制定当時、瀬戸内海では赤潮が多発し、その範囲も広域化するなど水質の汚濁が深刻な問題となっていた。これに対処し、美しさを誇る景勝地に富み貴重な漁業資源の宝庫である瀬戸内海の環境を保全することを目的として、臨時措置法は制定されたものである。
2 瀬戸内法一三条の配慮義務
臨時措置法は、その一三条一項において、「関係府県知事は、瀬戸内海における公有水面埋立法二条一項の免許又は同法四二条一項の承認については、臨時措置法三条にいう瀬戸内海の特殊性(瀬戸内海が、わが国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として、また、国民にとって貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきものであること)につき十分に配慮しなければならない。」旨規定し、瀬戸内海における埋立免許について特別の配慮を求めている。
臨時措置法一三条一項の規定の運用についての基本的な方針に関しては、同条二項により、瀬戸内海環境保全審議会において調査審議するものとされており、この規定に基づき、同審議会は、昭和四九年五月九日、環境庁長官事務代理にあって「瀬戸内海環境保全臨時措置法第一三条第一項の埋立てについての規定の運用に関する基本方針について」と題する答申を行った。右答申において、同審議会は、「当審議会としては、瀬戸内海の環境の一層の悪化を防止するため瀬戸内海環境保全臨時措置法が全会一致の議員立法として制定された経緯にもかんがみ、瀬戸内海における埋立ては厳に抑制すべきであると考えており、やむを得ず認める場合においてもこの観点にたって基本方針が運用されるべきであると考えていることをこの際特に強調しておくものである。」と述べたうえで、瀬戸内海における公有水面埋立法二条一項の免許又は同法四二条一項の承認に当たって配慮すべき事項を定めている。この配慮すべき事項の中には、原告らの指摘する「埋立てによる潮流の変化がもたらす水質悪化の度合及び異常堆砂・異常洗掘等による隣接海岸への影響の度合が軽微であること。(1(1)(ハ))」及び「埋立てそのものの海水浴場等の利用に与える影響が軽微であること。(1(2)(ロ))」の各項目が掲げられている。
右答申の内容は、同年六月一八日、環境事務次官から各瀬戸内海関係府県知事及び各政令市長にあてて通達された。
臨時措置法一三条の各規定は、昭和五三年の改正後も、特別措置法一三条としてそのまま残された。そして、同条一項に基づく配慮も、依然、前記基本方針に従って行われるものとされている。
これら瀬戸内法一三条一項の規定によれば、同項所定の配慮義務を負うのは関係府県知事とされているが、同規定の趣旨からすると、港湾法五八条二項に基づき埋立免許を行う港湾管理者の長も、瀬戸内法一三条一項所定の配慮義務を負うものと解される。
3 自然海浜保全地区制度
昭和五三年の改正の結果、瀬戸内法には自然海浜保全地区の制度が設けられた。この制度は、瀬戸内海においては、人口及び産業の集中に伴い自然海浜が減少し、海水浴、潮干狩り等の海洋性レクリエーションの場としての自然海浜が極めて貴重な価値を有するに至り、その保全及び適正な利用を図ることが要請されているが、現行の諸制度は、自然海浜の保全を必ずしも直接の目的とするものではないこと等から、このような自然海浜を保全し、適正な利用を推進するために設けられた制度である。その具体的内容は、①関係府県は、条例の定めるところにより、瀬戸内海の海浜地及びこれに面する海面のうち、水際線付近において砂浜、岩礁その他これらに類する自然の状態が維持され、かつ、海水浴、潮干狩り等の用に公衆に利用されており、将来にわたってその利用が行われることが適当であると認められた区域を「自然海浜保全地区」として指定することができるとされたこと(特別措置法一二条の六)及び②関係府県は、条例で定めるところにより、自然海浜保全地区内において工作物の新築、土地の形質の変更等の行為をしようとする者に必要な届出をさせ、当該届出をした者に対して自然海浜保全地区の保全及び適正な利用のため、必要な勧告又は助言をすることができることとされたこと(同法一二条の七)である。
環境庁水質保全局長は、昭和五四年七月一三日、瀬戸内法関係府県知事にあてて、「自然海浜保全地区制度の運用について」と題する通知を発し、自然海浜保全地区条例の標準条例を示して、条例の速やかな制定とその適正な運用を促した。右標準条例においては、自然公園法二条一号に規定する自然公園の区域及び都市計画法四条六項に規定する都市計画施設(公園又は緑地に限る)の区域等については、自然海浜保全地区の指定をしないものとされている。これは、これら除外区域の根拠規定である既存の法律によって、自然海浜の自然状態の維持及び海水浴等への公衆の利用の確保といった自然海浜保全地区制度の目的を達することができるため、あえて重複して自然海浜保全地区に指定する必要はない、との考えに基づくものである。
愛媛県においては、これを受けて愛媛県自然海浜保全条例が制定され、昭和五五年四月一日施行された。右条例に基づき、愛媛県内では、昭和六一年三月末日現在で合計二三箇所が自然海浜保全地区に指定されている。
右条例では、都市計画法四条六項に規定する都市計画施設(公園又は緑地)が除外区域とされていない。これは都市計画施設としての公園又は緑地における行為制限の内容が明確でないため、重複して自然海浜保全地区に指定できるよう配慮されたものと推認される。本件の東村海岸公園は、その物理的状況からも利用状況からも自然海浜保全地区の対象となるべき要件(特別措置法一二条の六)を備えており、また、都市計画法四条六項に規定する都市計画施設としての公園(都市計画公園)であるから、その海岸部分は右条例上自然海浜保全地区に指定することも可能である。しかし、右海岸部分は、前記二三箇所の指定地区には含まれていない。ただ、地先の海面は自然公園法二条一号に定める公園指定がなされており、除外区域となっている。
また、前記条例においては、自然海浜保全地区内で水面の埋立て等一定の行為をしようとする者は、知事に対し届出(地方公共団体等が行う場合には通知)をしなければならないとされており(同条例五条)、知事は、自然海浜保全地区の保全及び適正な利用のために必要があると認めるときは、届出をした者に対し必要な勧告又は助言をすることができると規定されている(地方公共団体等が行う場合には、通知をした者に対し意見を述べることができると規定されている。同条例六条)。知事が、これらの規定に基づき、勧告、助言をし、又は、意見を述べることによって、自然海浜保全の実をあげることが期待されている。
4 愛媛県計画
瀬戸内法は、「政府は、瀬戸内海の水質の保全、自然景観の保全等に関し、瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき計画を策定しなければならない。」と規定している(臨時措置法三条、特別措置法三条一項)。右規定に基づき、昭和五三年五月一日瀬戸内海環境保全基本計画が策定された。同基本計画は、自然海浜の保全等に関し、「海水浴場、潮干狩場等の海洋性レクリエーションの場や、地域住民のいこいの場として多くの人々に利用されている自然海浜については、その隣接海面を含めて地区指定を行う措置を講ずること等により、できるだけその利用に好適な状態で保全し、また、養浜等により海浜環境を整備するよう努めるものとする。」と定めている。
さらに、昭和五三年の改正の際、「関係府県知事は、基本計画に基づき、当該府県の区域において瀬戸内海の環境の保全に関し実施すべき施策について、瀬戸内海の環境に関する府県計画を定めるものとする。」との規定が新設され(特別措置法四条一項)、この規定に基づき、愛媛県においては、瀬戸内海の環境の保全に関する愛媛県計画(愛媛県計画)が策定された。同計画は、「第3目標達成のために講ずる施策」の「4自然海浜の保全等」において、「自然海浜は、地域住民のいこいの場及び海水浴、潮干狩場等の海洋性レクリエーションの場として、多くの人々に利用され、県民の健康で文化的な生活を確保するため、必要不可欠なものとなっているが、近年これら自然海浜が減少する傾向にあることにかんがみ、できるだけその利用に好適な状態で保全されるよう、以下の施策を講ずるものとする。」としたうえで、その具体的な施策のひとつとして、「(1)規制の徹底と指導、取締りの強化」において、「自然海浜保全のため、瀬戸内海環境保全特別措置法に規定された愛媛県自然海浜保全条例に基づき、自然海浜保全地区の指定を進めるとともに、条例の適切な運用を図るものとする。また、その他県下の貴重な自然海浜が、自然公園法、都市計画法、都市公園法、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律、森林法に基づく各種指定地区に指定されているので、これら指定地域においては、当該法律に基づく適切な運用を図ることにより、自然海浜がその利用に好適な状態で保全されるよう努めるものとする。」と定めている。
5 以上見てきたところによれば、現在の瀬戸内法は、水質の保全及び自然景観の保全等の観点から、瀬戸内海における新たな埋立ては厳に抑制すべきこと、やむを得ず埋立てを認める場合においても、前記観点について十分な配慮がなされることを求めるとともに、特に自然海浜については、近年これが減少し、現在では極めて貴重な価値を有するに至ったとの認識のもとに、その自然状態を保全し、適正な利用を図ることを求めている。このように、瀬戸内法は、瀬戸内海の自然海浜については、極力埋立てを抑制し、できる限りその自然状態を保全すべきことを求めているものといってよい。しかしながら、瀬戸内法は、瀬戸内海における埋立てを完全に禁止しているというわけではない。すなわち、瀬戸内法一三条は、結局のところ、瀬戸内海において今後も埋立てが行われることがあり得ることを前提としたうえで、埋立免許権者に対し、特別措置法三条一項に規定する瀬戸内海の特殊性に十分配慮すべきことを求めた規定にすぎない(もっとも、右配慮をする限り、免許をしないとの判断しかなし得ないという場合もあり得る。)。また、自然海浜保全地区制度も、そこでは、保全地区に指定された地区内で水面の埋立て等一定の行為をしようとする者に対し届出等の義務を課し、これに対し知事が勧告、助言することができるものとされていること自体からも明らかなように、自然海浜保全地区において今後も埋立てが行われることを前提とした制度であるといわざるを得ないのである。
そして、愛媛県計画について見ても、前述した自然海浜保全のために講ずべきものとされた施策の内容にかんがみると、自然公園法、都市計画法等に基づく各種指定地区の自然海浜の保全につき愛媛県計画が目指すところも、自然海浜保全地区における場合と同様であると解される。したがって、愛媛県計画が右各種指定地区の自然海浜を保全するよう努める旨定めているのも、埋立てを一切認めない趣旨であるとは解されないことは、自然海浜保全地区の場合と同様である。
結局、本件埋立てのように、瀬戸内海の自然海浜が都市計画公園に指定されており、その地先の海面が自然公園法二条一号に基づく自然公園(瀬戸内海国立公園の普通地域)に指定されている海面を埋め立てる場合には、当該埋立ての必要性及び公共性の高さと、埋立て自体あるいは埋立て後の土地利用が周囲の自然環境に及ぼす影響等を衡量し、その埋立てが真にやむを得ないものであるかどうかを考えて、その許否が決められるべきものであり、ただしその際、その許否の判断にあたっては、瀬戸内法及びこれに基づく愛媛県計画の趣旨、すなわち、瀬戸内海の自然海浜については極力埋立てを抑制し、できる限りその自然状態を保全すべきであるとの趣旨を十分に考慮に入れなければならないものと解すべきことになるのである。
三次に、原告らが本件埋立免許部分の違法事由として主張する点について検討する。
1 瀬戸内法違反の主張について
(一) 隣接海岸への影響
まず、本件埋立てにより東村海岸公園中の埋立て後残される部分の浜の砂が減少し、浜そのものが消滅するおそれがある、との原告らの主張につき検討する。
(1) <証拠>によれば、以下の事実が認められる。
ア 一般に、海岸地形の変遷は、長い年月の間の堆砂、浸食等によってもたらされるものであり、長い年月の間に見られる海岸線の変遷を調べることにより漂砂の卓越的移動方向を推定することができる場合が少なくない。そして、明治三一年、昭和三年、昭和一四年及び昭和二四年に作成された各地形図からうかがわれる竜登川河口付近の砂嘴(砂や小石が波や流れの作用により一定の方向に細長く帯状に堆積してできた地形)の形成状況(北西から南東方向に伸びている。)から見ると、右期間の右地点における漂砂の卓越的移動方向は、北西から南東への方向であったと認められる。
イ 一般に、海岸漂砂の移動は主として波によって行われるものであり、海岸に構造物がある場合、波の打ち寄せる側は、構造物によって漂砂が止められてできる堆砂により砂浜の幅が広くなり、反対側は、漂砂の供給の減少と回折波による浸食とで砂浜の幅は狭くなると解されている。ところが、頓田川以南の唐子浜から大崎海岸に至る隣接海岸に存在する突堤においては、いずれも突堤の北西側に堆砂が多く、南東側が浸食されている。
ウ 一般に、海岸砂は、主として河口から供給され、波、潮流及び風によって運ばれるものであり、その際、粒径の小さな砂ほど遠くに運ばれるので、汀線漂砂は、漂砂供給源から漂砂移動の卓越方向の下流に向かうほど粒径の小さなものとなる。ところが、昭和六〇年に国土問題研究会調査団が汀線における漂砂を採取して行った粒度分析の結果によれば、織田が浜及びこれに隣接する唐子浜においては、各海岸の北西端に当たる竜登川及び頓田川の各河口から南東方向に向かうに従って、中位粒径の粒度が小さくなる傾向が認められた。
以上の各認定事実は、いずれも織田が浜における漂砂の卓越的移動方向が北西から南東への方向であることを強く示唆している。
(2) これに対し、<証拠>によれば、以下の事実が認められる。
ア 今治市から依頼を受けた日本港湾コンサルタントは、富田地区の埋立てが行われる前の状態の織田が浜について、「織田が浜は、北西−南東方向の直線的な海岸であることから、漂砂の移動量は一様である」との判断のもとに、若干内陸部における観測の結果ではあるが観測の歴史が古く欠測のない今治消防署の風測結果と、観測の歴史は浅く欠測があるが臨海部の今治港に所在する港務所における風測結果との相関関係を検討し、今治消防署の風測結果に補正を加えたうえで、これをもとに織田が浜における波の特性を推定し、さらに、沿岸漂砂量の算定式である岩垣・椹木公式を用いて織田が浜における漂砂量を算定した。その結果は、南東から北西方向へ一年当たり1万1507.2立法メートル移動するというものであった。なお、右岩垣・椹木公式は、海浜勾配、砂の平均粒径、砕波高、沖波の波長、砕波点の入射波向をもとに漂砂量を算定する公式である。
イ 昭和四九年から蒼社川河口のしゅんせつが始まり、昭和五二年に着手された鳥生地区の埋立てが昭和五五年に完成したが、その後も織田が浜の汀線には必ずしも有意な変化はみられない。
以上の事実は前記(1)で認定した各事実が示唆する結論と矛盾するものである。しかし、右のア及びイの各事実を根拠として織田が浜における漂砂の卓越的移動方向が南東から北西への方向であると推測することの合理性には次のような疑問が残る。
まず、右アについては、日本港湾コンサルタントが算定した前記結果は、前記(1)アで認定した「明治三一年から昭和二四年までの間の織田が浜の北西端に当たる竜登川河口付近における漂砂の卓越的移動方向が、北西から南東への方向であった。」との事実と矛盾していると思われる。前記岩垣・椹木公式は海浜の特性(海浜勾配及び砂の平均粒径)と波の特性(砕波高、沖波の波長及び砕波点の入射波向)から漂砂量を算定する公式であるが、この公式に代入された波の特性が織田が浜における実際の波の特性と異なっていたためにこの矛盾が生じたのではないだろうか。日本港湾コンサルタントは、前記認定のとおり、織田が浜における波そのものを直接調査した結果を用いているのではなく、今治消防署での風測結果に、これと港務所での風測結果との相関関係を検討して補正を加え、これをもとにして織田が浜における波の特性を推定するという複雑な過程を経て前記公式を適用しているので、この複雑な過程の中で実際の織田が浜における波の特性と右公式に代入された波の特性とが異なってしまったことも十分に考えられるのではなかろうか。右のような疑問を禁じ得ない。
もっとも、証人田中則男の証言によると、織田が浜のうちでも前記竜登川河口に近い部分と富田地区の埋立ての後に海岸として残る部分とでは漂砂の卓越的移動方向が異なることが起こり得るという。しかし、前記認定のとおり、日本港湾コンサルタントは明らかにこれと異なった判断をしており、実際に織田が浜のある部分と他の部分とで漂砂の卓越的移動方向が異なるという事態が生じているのか疑問である。
次に、右イについては、この事実が織田が浜における漂砂の卓越的移動方向が北西から南東への方向であるとの事実を否定する根拠となるためには、その前提として、蒼社川河口のしゅんせつ及び鳥生地区の埋立てによって蒼社川及びそれより北西側からの砂の供給が阻止されてしまったことが認められなければならない。しかし、このような前提事実が存在するとしたら、蒼社川及びそれより北西側から供給される砂によって養われていた砂浜は浸食されていく可能性が大きいと考えられるのに、前出甲第六一号証の二によれば、織田が浜のうち少なくとも現在木材団地となっている部分の砂浜は右のような砂浜であると認められるにもかかわらず、前出乙第一一号証、乙第七号証中のA点①、②の写真(右各写真がそれぞれ昭和四二年及び昭和六一年当時における木材団地護岸隅角部分の写真であることは、当事者間に争いがない。)及び証人田中則男の証言によれば、木材団地の南東端部分の砂浜の砂は、右しゅんせつ及び埋立ての開始後も特に浸食されてはいないものと認められる。このような事実に加えて、前出乙第一一号証によれば、今治市が昭和六〇年八月と同年一〇月の二回にわたり蒼社川河口右岸から頓田川河口付近までの範囲で行った底質調査の結果では、最大粒径についても、中央粒径についても、その分布状態が八月と一〇月とで異なっていることが認められるので(ただし、この違いが有意なものであるかどうかは必ずしも明らかではない。)、このような事実も併せ考えると、本当に蒼社川河口のしゅんせつ及び鳥生地区の埋立てによって蒼社川及びそれより北西側からの砂の供給が止まってしまっているのかどうか、疑問を感じざるを得ない。
(3) (1)及び(2)での検討の結果を要するに、織田が浜における漂砂の卓越的移動方向は全面にわたって元来北西から南東への方向であり、このことは蒼社川のしゅんせつ及び鳥生地区の埋立てによっても基本的には影響を受けることなく今日に至っていると仮定すれば、過去及び現在における織田が浜及びその付近の現実の状況を合理的に説明することが容易であるのに対し、右卓越的移動方向が南東から北西への方向であると仮定すると、右状況の合理的説明には困難が伴うことになるということである。
(4) 以上述べたところに基づいて考えると、証人木村春彦が供述するように、織田が浜における漂砂の卓越的移動方向は北西から南東への方向であり、富田地区の埋立てが行われると織田が浜への北西方向からの砂の供給が阻止されてしまい、織田が浜の浸食が進み、数十年後には、織田が浜が少なくとも部分的には(特に埋立地に近接した部分ほど)消失してしまうことも、十分に考えられるのである。
(二) 海水浴に与える影響
前記のとおり、東村海岸公園が海水浴場として利用されてきた事実は当事者間に争いがない。そして、<証拠>によれば、①織田が浜のうち遊泳が可能な範囲は、東村海岸公園中頓田川河口寄り南東部約一五〇メートルを除いた延長にして約九六〇メートルの部分であること及び②本件埋立てが実施されれば、そのうちの約三六〇メートルの部分について地先の海面が埋め立てられる結果となることが認められる。したがって、こと織田が浜に関する限り、現在遊泳可能な海岸のうち優に三分の一以上の海岸が本件埋立てによって失われることは、動かし難い事実である。
2 公有水面埋立法違反の主張について
既に述べたとおり、瀬戸内法は、瀬戸内海の自然海浜については極力埋立てを抑制し、できる限りその自然状態を保全すべきことを求めており、また、これに基づく愛媛県計画も、自然公園法、都市計画法等に基づく各種指定地区について、自然海浜保全地区と同様に極力埋立てを抑制する趣旨であると解される。ところが、本件埋立てが、海岸部が都市計画公園に指定されており、その地先海面が自然公園法に基づく国立公園に指定されている東村海岸公園の自然海浜を埋め立てるものであることも、既に述べたところから明らかである。したがって、本件埋立てが、瀬戸内法及びこれに基づいて策定された愛媛県計画の目指す方向にそわない要素を極めて濃厚に有することは、否定することのできないところである。
四違法の重大明白性
以上述べてきたところによれば、本件埋立免許部分が違法である旨の原告らの主張には傾聴すべき点が多いということができる。しかしながら、仮に本件埋立免許部分が原告らの主張するとおりの理由により違法なものであったとしても、その違法を重大かつ明白なものとすることはできない。すなわち、次のとおりである。
1 違法の重大性
(一) 既に述べたとおり、東村海岸公園の地先海面は、瀬戸内法によっても、また、愛媛県計画によっても、埋立てが完全に禁止されているというわけではなく、本件埋立てが許されるかどうかは、結局のところ、本件埋立ての必要性及び公共性の高さと、埋立て自体あるいは埋立て後の土地利用によって周囲の自然環境に及ぼす影響等を衡量して、本件埋立てが真にやむを得ないものであるかどうかを考えて、判断されるべきものである。
右判断は、瀬戸内法及びこれに基づく愛媛県計画によって厳しい制約は受けるものの、一定の範囲において埋立免許権者である被告の裁量に委ねられているといわなければならない。このような裁量行為に、それに基づく行為を裁判所が事実上事前に差し止めることを根拠付けるだけの重大な違法があるといえるのは、被告がその裁量権を逸脱し、又は、その裁量権を濫用した場合において、その度合いが著しく、もはやとても行政機関の責任ある判断といえないような場合に限られると解すべきである。すなわち、右裁量における選択につき、裁判所がそれに基づく行為の事前差止めという形でその非違をただし得るのは右限度にとどまり、これを越える範囲については、行政担当者の政治的判断(最終的には、選挙等で示される住民の総意)に従ってことが行われ、したがってまた、それによってもたらされる結果についての責任もまたそこに存するものと解すべきである。このような解釈こそが、①住民訴訟制度の趣旨・目的、②行政訴訟制度の全体の仕組み、③右制度が前提としている司法と行政とのかかわり合いのあるべき姿等の要素(前記第三の四参照)から見て、最も整合性に富んだ合理的な解釈と考えられるからである。
(二) <証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。
(1) 今治港の港湾管理者である今治市は、従来、昭和四六年に改訂された港湾計画(通称第二次港湾計画)に基づいて今治港の港湾整備を進めてきた。ところが、①今治港の背後圏の中心である今治市が生産及び消費物資の流通拠点として今後ますます発展することが予想されること、②船舶の大型化、積荷のコンテナ化等の情勢の変化に対応し、一万トンを超える船舶が接岸できる岸壁の新設やコンテナ貨物の荷さばき施設の充実が望まれるようになったこと、③人口密度の高い今治市では、地場産業である繊維関係企業を中心とする中小企業が市街地内に住宅と混在し、騒音、振動等の環境上の問題を生じており、これらの企業の移転拡張用地の確保が必要とされていることなどの理由から、今治市は、前記第二次港湾計画の改訂を計画した。その改訂計画案には、①別紙平面図に表示された富田地区の港湾施設等を、同一の形状で、同図面に表示されたものより二〇〇メートル南東方向に移動させた位置に設置すること、②これによって、富田地区には三万トン級の岸壁一バースと一万五〇〇〇トン級の岸壁一バースをそれぞれ設けるほか、ふ頭用地(荷さばき施設及び保管施設用地)約五ヘクタール及び都市再開発用地約一六ヘクタールを確保すること、③前記富田地区の港湾施設等の用地合計約三七ヘクタールのうち約三四ヘクタールについては、海面の埋立てによってこれを造成することという内容が含まれていた。
(2) 今治市は、昭和五九年六月、前記改訂計画案を今治市地方港湾審議会に諮り、「今治市の産業発展のために真にやむを得ないものと認め、原案のとおり認める。」旨の意見を得て、今治港港湾計画を改訂した(以下、この改訂された港湾計画を「第三次港湾計画」という。)。第三次港湾計画は、昭和五九年七月に今治市から運輸大臣に提出され、同大臣によって港湾審議会に諮られた。同年八月九日に開かれた同審議会では、環境庁から出席した委員によって、「富田地区の埋立計画については、地域振興の観点から特に強い必要性が認められる場合であっても、瀬戸内法の趣旨にかんがみ、自然海浜は保全されるべきである。都市計画公園である自然海浜の埋立てについては、必要最小限度にとどめるべきであると考えるので再考されたい。」旨の意見が述べられた。しかし同審議会は、最終的には、運輸大臣に対して「原案のとおりおおむね適当と認める。ただし、富田地区の計画については、実施にあたり海浜保全の見地から更に検討されたい。」旨の意見を答申した。その後、運輸大臣は、同月二三日付けで、今治市に対し、「第三次港湾計画については、港湾法三条の三第六項の規定による措置を執る必要がないと認める。ただし、富田地区の計画については、実施にあたり、海浜保全の見地から更に検討されたい。」旨通知した。
(3) 今治市は、前記港湾審議会の意見を受けて、富田地区の計画についてはその位置を北西方向に移動させることを考え、直ちに第三次港湾計画を一部変更する作業を開始し、運輸省等との協議も行った。その過程において運輸省と環境庁との間で意見の交換が行われ、環境庁は、当初東村海岸公園の自然海浜を一切埋め立てない方法によることを主張していたが、昭和五九年八月三一日に至り、少なくとも東村海岸公園の自然海浜を三分の二以上残すことで両者の意見が一致した。今治市は、同年九月一日、富田地区の計画を北西方向に二〇〇メートル移動させ、別紙平面図に表示のとおりの位置とする旨を発表し(富田地区の計画を右のとおりに変更すると、東村海岸公園約1.1キロメートルのうちおおむね三分の一に当たる約三六〇メートルの地先海面が埋め立てられることになる。)、次いで、右趣旨の第三次港湾計画の一部変更を行った。その手続においては、今治市地方港湾審議会及び港湾審議会は、いずれも「原案のとおり適当と認める。」旨の意見を答申し、運輸大臣は、昭和五九年一二月七日付けで、今治市に対し、「右変更については港湾法三条の三第六項の規定による措置を執る必要がないと認める。」旨通知した。
(4) 今治市は、右の変更された第三次港湾計画に基づき、富田地区の埋立てのうち今治市が工事主体となる部分(富田地区の埋立てのうち北西側の岸壁部分を除いた部分)の埋立てを行おうとして、昭和六一年八月二八日、埋立免許権者である被告に対し、公有水面埋立法に基づく埋立免許を出願した。被告は、同法所定の手続きを経て、昭和六二年三月二日、右出願にかかる埋立てを免許した(前記第二のとおり、以上の事実は当事者間に争いがない。)。
本件埋立免許に至る過程において、被告は、愛媛県の土木部都市計画課長、保健環境部公害課長、水産局水産課長及び商工労働部総務観光課長に対し、富田地区の埋立てについての意見を照会したが、その結果は、商工労働部総務観光課長から「環境庁の意向も配慮されたい。」旨の意見が付されたほかは、いずれも特に支障がない旨の意見であった。
さらに、被告は、昭和六一年一一月九日付けで、公有水面埋立法四七条一項、同法施行令三二条本文に基づき、運輸大臣に対し、本件埋立免許についての認可の申請をした。運輸大臣は、本件埋立てと愛媛県計画との整合性の問題も含めた埋立免許基準の具備の有無、瀬戸内法一三条所定の配慮義務についての基本方針との適合性等を審査したうえで、昭和六二年二月二七日、本件埋立免許について認可した。
なお、右認可の審査の際、運輸省は、環境庁に対し、公有水面埋立法四七条二項に基づいて環境庁長官の意見を求める必要があるかどうかについての環境庁の意向を打診したところ、環境庁からは、「環境庁の意見を容れて第三次港湾計画が変更されたので、今回の本件埋立免許の認可に当たっては、運輸省に対し環境庁長官の意見を求めるように働きかけることはないと判断している。」旨の回答があったため、本件埋立免許の認可に関しては、運輸大臣が環境庁長官の意見を求めることはしなかった。
(5) 今治市は、富田地区の埋立てによって消失する海面が瀬戸内海国立公園の普通地域に当たるため、自然公園法二〇条一項に基づき、昭和六二年一月二三日付けで、愛媛県知事に対し、富田地区の埋立てを行う旨の届出をした。同条二項によれば、環境庁長官は、国立公園の普通地域内において水面の埋立て等の行為をしようとする者又はした者に対し、当該公園の風景を保護するために必要があると認めるときは、必要な限度において、当該行為を禁止し、若しくは制限し、又は必要な措置をとるべき旨を命ずることができる旨規定しているが、現在までそのような措置がとられた形跡はない。
(三) 以上認定した事実に照らして考えると、本件埋立免許部分が、原告らの主張するとおりの理由により違法なものであったとしても、その違法がとても行政機関の責任ある判断とはいえない程度にまで著しいものに至っていると認めることはできない。
2 違法の明白性
既に述べたとおり、東村海岸公園の地先海面は、瀬戸内法によっても、また、愛媛県計画によっても、埋立てが完全に禁止されているというわけではない。したがって、原告の主張するような理由で本件埋立免許部分が違法なものであったとしても、その違法が専門的知識を有しない通常人にとっても容易に認識できるほどに明白だということもできない。
五本件埋立免許部分の違法性についての検討の結果は、以上のとおりである。したがって、これと同様の理由によって違法であると主張されている本件埋立て自体についても、仮に原告らの主張のとおりの理由により違法なものであったとしても、その違法を重大かつ明白なものとすることはできないものといわなければならない。
第五結論
以上の次第であるから、本件公金支出には、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づく差止めを根拠付けるだけの違法はないというほかはない。したがって、原告らの請求がいずれも理由のないことは、その余の点につき判断するまでもなく明らかである。そこで、原告らの請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官井上郁夫 裁判官原村憲司裁判長裁判官山下和明は、転補につき署名捺印することができない。裁判官井上郁夫)